名店のまかないレシピ

小田倉光夫 / 香味屋 ホワイトルゥーのとろみが決め手 洋食屋のグリーンカレー

下町情緒あふれる落ち着いた街並みにしっくりとなじんだ佇まいを見せる洋食の名店「香味屋」。大正14年に輸入雑貨店として創業し、ハイカラを求める花柳人に食事を提供し始めたことから、「ビーフシチュー」や「メンチカツ」といった人気メニューが生まれたのだとか。「おいしいもので人を幸せにしたい」という思いから料理の道に進んだという料理長の小田倉光夫シェフが腕を振るう今日のまかないは「グリーンカレー」。洋食店ならではのこだわりも教えてくれました。

名店のまかないレシピ / 香味屋

「おいしい」という言葉が料理人を育てる

まかないというのは、店の仲間内に出して食べる料理ですが、「おいしいものを作って喜んでもらいたい」という気持ちは、お客様にご提供する料理と何も変わらないものだと思っています。

だから、サッと作るとはいっても、味気ない料理にはならないように、自分なりの工夫をします。「おいしい」と言ってもらえたら、自信になりますしね。まかないは料理人が育つための大事なものだと思っています。

うちの店のまかないは1日2回。営業中の12時半~15時半と、17時以降に、時間ができたタイミングで食べてもらっています。今日は久しぶりに全員揃って食べました。

私がこの店に入った頃はまかない作り専門のおばちゃんがいましたが、引退された後は私たちで作るようになりました。1週間の中で担当を割り振りして順番に。洋食に限らず、和食でも中華でも作りたいものを作ってもらっています。

私が若い頃は「店に出す料理の腕を上げたい」と、練習のつもりでオムライスやオムレツをよく作ったものですが、最近の若い人たちはあまり洋食を作りませんね。洋食屋に入ったのになんでかなぁなんて思っていたら、どうやら私がいない日にはよく作っているようです(笑)。

食べてみてうまいと思ったら、素直に褒めるようにしています。やはり「おいしい」の一言が、料理人を成長させると信じているからです。本人のやる気が見えたタイミングを逃さずに仕事を教えることも、日頃から心がけています。

「おいしい」という言葉が料理人を育てる

まかないではちょっとハメを外して

今日のメインは、私が以前からよく作っている特製「グリーンカレー」にしました。本場タイのサラサラとした辛いグリーンカレーとは違って、ホワイトルゥーでとろみをつけてマイルドな辛さに仕上げているのがポイントです。日本のご飯にも絡みやすくよく合うんです。

具材にはシーフードを入れていますが、タイ料理店出身のスタッフから言わせると「邪道」のようです(笑)。私はいいんじゃないかと思うんですけどね。釣りが趣味でよく行くんですが、釣れたイカを冷凍しておいたのを使いました。こういった遊びができるのも、まかないを作る醍醐味の一つかもしれませんね。

お店で守りたいのは、受け継がれた伝統の味であり、その味をより極めること。例えば、ビーフシチューのソースを作る時の肉の質は絶対に落としません。老舗の場合、長い付き合いのある取引先とはついなあなあになりがちですが、よい緊張感をもって、時にはケンカもしながら「より良い食材」を求めます。新しい味に手を出したくなることもありますが、伝統の味を守りながら進化し続けることが私たちの本分。それが常連のお客様が期待されていることでもあると思っています。

だからでしょうか。まかないでは、ちょっとハメを外しますね。私はどちらかというと創造性豊かなタイプではありませんが、あれこれと考えてアレンジをしてみるのも料理の楽しみだと、まかないを通じて感じています。

洋食屋のグリーンカレー と 鶏ささみと蒸し茄子のサラダ

洋食屋のグリーンカレー と 鶏ささみと蒸し茄子のサラダ

コツ・ポイント

グリーンカレーは、ホワイトルゥーを加えることでとろみが出て、生クリームと牛乳を加えることでクリーミーな味わいになる。イカと海老は火を通し過ぎるとかたくなるので、ひと煮立ちさせる程度で。

鶏ささみと蒸し茄子のサラダは、酒と塩の下味で鶏肉のにおいをとる。レンジで蒸す場合は、かぶるくらいの水を注ぎ、ねぎ、しょうがとともに加熱するといい。鶏肉とナスを切る長さを合わせると、食感と見た目がよくなる。

  • facebookにシェア
  • ツイートする
  • はてなブックマークに追加
  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦