名店のまかないレシピ

窪田好直 / グリル満天星 スープをとった具材をフル活用 牛すじ肉と豆腐のアレンジワンプレート

東京・麻布十番の一角で長きに渡って愛される洋食の名店「グリル満天星 麻布十番」。温かみと上質感のあるレンガ造りの空間で楽しめるオムライス、ビーフシチューといった王道の洋食メニューが人気で、3世代で通うファンも多いのだとか。総料理長を務めるのは、この道60年という窪田好直シェフ。「料理は工夫次第。私のアイデアが枯れることはない」という窪田シェフの信念は、まかないにも色濃く表れていました。

本や他人の真似でない「自分だけの料理」を求めて

本や他人の真似でない「自分だけの料理」を求めて

私はね、実は料理の道に入る前は新聞社のカメラマンをやっていたんですよ。転身のきっかけは、勤務先の社員食堂のコックさんからのスカウト。当時はまだ米が配給されているような時代で、食糧が今のように豊かではなくてね、食堂でおいしいものを食べさせてもらうために、食器洗いとか盛り付けを時々手伝っていたんですよ。私はもともと手先が器用なタイプで何でも工夫するのが好きだったから、食器を割らずに手早く洗ったり、古くなった輪転機(新聞専用の印刷機器)の部品を改造して盛り付け皿を高く積み上げる仕組みを作ったりしたら感心されましてね。「コックになったほうがいい」と勧められたんですよ。私も新しいことに挑戦するのが好きだったから、思い切って飛び込んだら、紹介で旧丸の内会館に行き、“天皇の料理番”・秋山徳蔵氏のもとで修業することになりました。

しかし、いきなりブッチャー(肉担当)をやらされたので参っちゃいましたね。大きな肉なんて見たこともないんだもの。仲間にもずいぶん馬鹿にされてつらい思いをしました。休みの日ごとに肉の卸店に通って、さばき方を習いに行きました。

基礎を積んだ後はただひたすら「自分だけの料理」を探求してきました。本に書いてある料理や、他人がやっている料理を真似するのではつまらない。フランス行きも薦められましたが、断固として行きませんでした。その姿勢を貫くことができたのは、ひとえにお客様の喜ぶ笑顔があったからです。そのために、常に新しいアイデアを考え、挑戦し続けてきました。今となっては一般的になりましたが「創作料理」というジャンルを切り開いたのは私だという自負があります。

“完成形”にしたくないから、レシピはあえて記録しない

“完成形”にしたくないから、レシピはあえて記録しない

「料理はオリジナルの工夫あってこそ」という考えは、まかないにも表れているかもしれませんね。

「お客様にお出しする料理の下ごしらえで使った食材をうまく活用しながら、無駄なく、栄養価が高い料理をつくりなさい」と普段から伝えています。

例えば、今日のワンプレート料理に使ったのはブイヨンスープを作る時に使った野菜と牛すじ肉です。ブロッコリーのゆで汁をそのまま活用してスープにもしています。ゆで汁には野菜のうまみと栄養が凝縮しているので、捨てるのはもったいないんですよ。ブロッコリーは茎の部分も調理します。薄くスライスして細切りにし、サラダにするのもおすすめです。

食材をじっと見つめながら、「これは何に使えるかな?」「もっとおいしくするには?」とあれこれと考えるのは心から楽しい時間です。常にアイデアを更新していたいので、レシピを書き留めることもめったにしません。書き留めた途端に“完成形”になってしまうのが嫌だからです。作るたびに考えるというのが、また私の発想力を高める刺激になっているのです。

ずいぶんと経験を重ねましたが、今でもアイデアが枯れることはありません。暇ができれば街に出て、食材を見て歩いては、料理のヒントを探ります。探求心こそが、料理人として現場で活躍し続けるための私の原動力となっていると思います。

牛すじ肉と豆腐のアレンジワンプレート と ブロッコリーのゆで汁スープ

牛すじ肉と豆腐のアレンジワンプレート と ブロッコリーのゆで汁スープ

コツ・ポイント

牛すじ肉と豆腐のアレンジワンプレートは、ソースとなる絹豆腐とマヨネーズをよく混ぜ合わせてなめらかな食感に。豆腐はしっかり水切りすることで分離を防ぎます。

ブロッコリーのゆで汁スープは、適度な塩加減がポイント。ブロッコリーをゆでたときの塩味が既にあるので、塩麹(または白だし)は少しずつ入れて味見をしながら調整してください。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦