名店のまかないレシピ

栗栖熊三郎 / 京料理 本家たん熊 本店 ハラールに挑む京の味 肉じゃが

京都の中心、四条河原町の一角。季節の移ろいを運ぶ鴨川のせせらぎに寄せるように佇む、風情ある構えの名店「京料理 本家たん熊」。昭和3年に創業して以来、素材そのままの味を活かす「もんも」な京料理にこだわり続け、ミシュランガイド京都・大阪の星を獲得し続ける名店として確かな味を届けています。“京料理の神様”といわれた初代が遺した味と技を受け継ぐのは、三代目主人の栗栖熊三郎さん。「綾鷹」のコマーシャル出演でお茶の間にも広く知られる存在となりました。「まかないには料理人のすべてが表れる」という栗栖さんがじっくりと語ってくださいました。

奇をてらわず、ベーシックな味を

奇をてらわず、ベーシックな味を

まかないというのは、言うまでもありませんが、店で働く人みなの活力の源です。おいしくいただけて、食べた後に元気に働けるものでないといけませんね。だから、こけたようなまかないを作る人にはとても任せられません。それから、からいものを作るのもだめです。からいものを昼に食べると、「からい口」になってしまって味付けができんようになりますでしょ。やっぱり、やさしい味わいの煮炊きもんがいいですね。

食事をすることを「めしを食う」というように、献立はあくまで「ご飯」を食べることを中心にすると心得ておきたいものです。ご飯をおいしくいただくには、まず汁物がいります。そして、漬物。この3点がそろえば、食事は成り立ちます。これに「菜=おかず」を加えるわけですが、これもやっぱり、奇をてらったものではなく、スキッとしたベーシックなおかずがいいですね。

今日のまかないの「肉じゃが」は見た目は普通かもしれませんが、息子の若主人が最近力を入れている「ハラール」に則った調理法で作った肉じゃがなんです。ハラールとはイスラム教の教義のなかで、許されたもの、という意味のものです。学生時代の旅行でイスラム圏内の人たちの温かさに触れた若主人は、「安心して本物の京料理を楽しんでいいただけるもてなしをしたい」という思いで勉強を始めました。調理場では豚肉は一切使わず、ムスリムの方がいらっしゃるときはみりんや酒などアルコール添加の調味料を一切使っていません。最初は「これは簡単ではないやろなぁ」と思いましたが、実際にお召し上がりになった海外のお客様にはとても喜ばれていますから、これからも四代目の挑戦は応援していきたいと思っています。

上達に必要な「運(うん)・根(こん)・鈍(どん)」

上達に必要な「運(うん)・根(こん)・鈍(どん)」

まかないというのは、たいていはその場にある食材を無駄なく使って手早く仕上げる、料理の腕が真に問われるものです。まかないには作る人のすべてが表れると私は思います。

昔うちで修業していた弟子の一人に、5年間ずっと芽が出ず、くすぶっていた者がおりました。ところが、ある日のまかないでいきなり開花しましてね。献立は、忘れもしません、淀の丸大根とおあげの炊いたんでした。「お客さんに出せるほどの味や。誰が作ったん、これ」とびっくりしましてね。それが彼のブレイクスルーになって、今では銀座で大成功してますよ。

まかないが腕を磨くトレーニングの場であることは、料理人を真剣に目指す者でしたらわかっていることだと思います。ただし、だからといって、あれやこれやと創作料理ばかり作るのはあまりいただけませんね。料理というのは何回も同じものを作って腕が磨かれていくんです。失敗から学んで上手になることもありますし、褒められた料理だってさらに何度も作ることでもっとよくなるんです。お茶の習いと一緒で、同じ型の「おうす」のお点前でも去年と今年ではどこか変わっていることに自分でも気づくこと、ありますやろ。だから私はいつも「毎回同じ献立を作ってもいいんやで」と言うんです。そうやって繰り返していくうちに、味付けの妙技が身についてくるのだと思います。

料理でも何でも、上達するには「運・根・鈍」が大事といいます。自らチャンスを見つけて、「運気」を呼び寄せる力。つらい時も耐える「根気」。そして、決して器用でなくても「鈍くさく」、コツコツと続ける力。この鈍くささこそ、真に尊いものだと私は思っているのです。

肉じゃが(ハラールな肉じゃが) と ほうれん草のおひたし

肉じゃが(ハラールな肉じゃが) と ほうれん草のおひたし

コツ・ポイント

肉じゃがは、牛肉から炒め、次に野菜類を炒めて火を通してから出汁で炊きます。仕上げは水分がほぼ無くなるところで火を止め、置いておくことでじゃがいもに煮汁を吸わせます。

ほうれん草のおひたしは、合わせ出汁を2つに分け2段階で漬けるのがポイント。まず湯がいて絞った野菜を仮漬け。その野菜を絞り、もう一つの出汁に本漬け。仮漬けで余分な水分を取り除くことができます。

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  • 文:宮本恵理子
  • 写真:平瀬夏彦