食材と生きる

青森県弘前市 オステリア エノテカ ダ・サスィーノ 笹森通彰

イタリア修業時代で培われた、自給自足レストランのイメージ

自分は生まれも育ちも、岩木山の麓のここ、弘前です。

祖母が畑をしていましたが、両親は公務員。自分の幼少時代は料理にも畑にも興味がなくて、ゲームと釣りばかりしていたような気がします。

高校を卒業して、仙台のコンピュータ専門学校に入りました。プログラマーにでもなろうかという気持ちが少しあるくらいで、正直なところ、何も決めていなかったですね。そのときのアルバイト先がイタリア料理店で、そこから料理に興味を持ちました。イタリア料理で生きていこうと覚悟したとき、決めたのは「30歳までに独り立ちする」ということ。そのためには、東京で修業して、イタリアにも行かなければ、と逆算して計画を立てていったんです。

東京では3軒のイタリア料理店で修業しました。南青山の「リヴァ・デリ・エトゥルスキ」は、トップクラスの料理というのはもちろん、イタリア人シェフというのが決め手でした。最初にサービスも担当させてもらえたのも、今に生きています。2軒目は六本木の「アル・ドジェ」。前店のスタッフから誘われた形でした。小さな店だったので、様々な仕事を覚えられましたね。最後は白金高輪の「ピオラ」です。辞める頃にはスーシェフの仕事をさせてもらいました。

東京は刺激的で、修業先での店での経験は得難いものでした。けれど自分には東京の生活はどうも合わなくて。人が多すぎて疲れちゃって、なんだか息も詰まるし・・・。地元の暮らしや慣れ親しんだ友人との関係が、自分にはしっくりくるなと感じていました。

イタリア修業時代で培われた、自給自足レストランのイメージ

2001年から2年半、イタリアで修業をしました。

イタリアでの修業先は、ヴェネト州の2ツ星「ドラーダ」、トスカーナ州シエナの「アルノルフォ」、キャンティの「アル・キアッソ・ディ・ポルティチ」などです。最初の修業先、「ドラーダ」は、それこそ山の奥の辺鄙(へんぴ)な場所にあるお店でしたが、連夜、車を飛ばしてお客さんが続々と来るんです。イタリアに渡る前は、ミシュランの星つきの店ならばイタリア各地から最高の食材を取り寄せているのかとも思っていましたが、むしろ正反対。自家用の畑があって、チーズも自家製。肉も近所で育った羊などを出していました。その自給自足のスタイルに大いに刺激されましたね。この頃から、東京のような都会でなくても、地元の弘前で店ができるのではと考え始めたのだと思います。

イタリア滞在中はアグリツーリズモ(農場が経営する宿泊施設)やワイナリーにもよく行きました。その中で今、自分がやろうとしているスタイル -ワインやチーズ、ハムなどの加工肉、野菜まで自分で作る- のイメージが形作られていきました。

最後はシチリアにあるホテル「カタネパレス」のレストランにいました。6月には40度くらいまで気温が上がり、光も肌を刺すような感じです。沖縄に似た、穏やかな雰囲気のある、とても居心地の良いところでした。30歳になり、就労ビザも切れるタイミングでしたが、このホテルや、ミラノのレストランなどから色んなお話をいただいて。東京や仙台のレストランからもシェフとして来ないかとお誘いをいただきました。

自分としては、シチリアに残りたい気持ちがある一方「このままでは居心地が良すぎてマズいぞ」という思いもあり(笑)、弘前に戻って独立準備を始めたのです。

元々は笹森氏の祖母が育てていたアスパラガス畑。祖母に育て方を教わった野菜も多いとの事。帰国した2003年に果樹を植え、サクランボウ、マルメロ、梨、イチジク、キウイ、桑、ブルーベリー、アーモンド、クルミなどが育成されている。烏骨鶏も飼育し、卵をデザートなどに使われている。

▲元々は笹森氏の祖母が育てていたアスパラガス畑。祖母に育て方を教わった野菜も多いとの事。帰国した2003年に果樹を植え、サクランボウ、マルメロ、梨、イチジク、キウイ、桑、ブルーベリー、アーモンド、クルミなどが育成されている。烏骨鶏も飼育し、卵をデザートなどに使われている。

濁りのないイタリアの味を、弘前で表現する

ワインセラーには生ハムやコッパ、サラミなどがあります。豚のほか、イノシシを使うこともあります。少なくても7?8種類は熟成中ですね。

ジャージー牛乳を使った自家製チーズも、ワインセラーで熟成させています。岩木山の麓に鯵ヶ沢という場所があるのですが、イノシシを飼育している農家さんや、ジャージー牛を育てている農家さんがいるんです。

店で出す野菜は、直売所などで買うものもあります。たとえば夏のお盆過ぎになると出てくる「獄(だけ)きみ」。獄地区で採れるトウモロコシのことで、地元でも評判です。

濁りのないイタリアの味を、弘前で表現する

青森のいい食材は使っていきたい。でも、イタリアにない食材は極力使わないようにしています。日本にいる日本人だからと和食の調味料や鮎を使い始めると、それは「創作」になってしまう。自分は、イタリア人が食べてもおいしいと思えるものを作りたい。イタリア料理の味が「濁る」のが好きではないんです。それが、自分なりのイタリア料理に対するリスペクトだと思っています。

この時期(8月中旬)、畑になっているのはズッキーニ、フルーツトマト、ルーコラ、カボチャ。カタバミや木イチゴ、ブラックベリーなんかもありますね。

ナスタチウムやフェンネル、ローズマリー、バジルやミントなどのハーブ。ハーブの種類だけで30?40種類はあると思います。それからケッパー。オリーブも育てていますが、なかなか思うように実をつけないですね。

この畑の野菜は全てレストラン消費用です。冬場は野菜がなくなるので、採れる時期にはピクルスにしたりピューレにしたりして保存します。

10年で日本一の店になる

10年で日本一の店になる

独立したときに、「開けて10年で、全国一番の店になろう」と決めました。そのとき考えたんです、自分の「売り」は何かって。結論としては「潰しがきく」ということ。サービスも調理もできる。ワインもチーズもハムも作れる。野菜も育てられるし、釣りもできるし、お皿も洗うの早いんです(笑)。

自分に、全国のきら星のごときシェフたちのような、突出したものはありません。でも「ソコソコ」のものは沢山持っている。「総合力」なら勝負できるぞと。

「ダ・サスィーノ」を開店した2003年は、ちょうどインターネットが普及していった時代。ブログなどでアピールすれば、東京=弘前間の距離は一気に縮まるという手応えもありました。そこで積極的にブログを書きましたね。狙っていたのは東京にいる食ライターさんや雑誌編集部。彼らの食指を動かすようなテーマを意識して発信していました。それが奏功して、オープンして割と早い時期から、雑誌やテレビで紹介していただけたのだと思います。

(後編へ続く)

ウニの冷製スパゲッティ

ウニの冷製スパゲッティ

コツ・ポイント

今回紹介するのはウニの冷製スパゲッティ。材料が揃えば、茹でた麺に和えるだけの簡単な一品です。コツはパスタの茹で時間を表示時間プラス2分すること。氷水でしっかり締めるので、いつもより少し茹ですぎるくらいのほうがいいでしょう。

お店でお出しするときは、魚のだしを濃縮したものを調味料的に入れていますが、家庭用ということで、塩昆布を代用しています。今回は太さ1.7mmのスパゲッティを使いました。

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オステリア エノテカ ダ・サスィーノ

オステリア エノテカ ダ・サスィーノ

〒036-8203

青森県弘前市本町56-8 グレイス本町2F

TEL 0172-33-8299

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎